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令和3年版防衛白書の特徴は、力による現状変更を進める中国によって台湾をめぐる緊張が高まることへの警戒感を示したことだ。
米中関係の項目を設けて、「台湾をめぐる米中間の対立は一層顕在化していく可能性がある」と警鐘を鳴らした。日本と国際社会のために台湾情勢の安定が重要だと初めて指摘し、「一層緊張感を持って注視していく必要がある」と訴えた。
尖閣諸島(沖縄県)や南シナ海、北朝鮮などの問題に加え、台湾の安全保障を重視する姿勢を示したのは妥当である。
中国側は白書に猛反発した。中国外務省報道官は「正常な国防建設や軍事活動を不当に非難し、いわゆる中国の脅威を騒ぎ立てている。断固反対する」と述べた。
さらに「台湾問題は完全に中国の内政問題だ。介入を決して許さない」「釣魚島(尖閣諸島)は中国領土の不可分の一部だ」「(日本が唱える自由で開かれた)インド太平洋戦略は、冷戦思考の復活と歴史的逆走で、ゴミの山に掃き捨てるべきだ」などと語った。
激しい言葉で反発したのは、白書が中国の痛いところを衝(つ)いたからだろう。中国は白書をののしるよりも、軍用機や空母での台湾への露骨な脅しをやめるべきだ。
中国を苛立(いらだ)たせた白書だが物足りなさもある。中国を「脅威」と明記せず、昨年同様、「わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念」とするにとどめた点だ。白書に反発し、尖閣を奪おうとすることこそ脅威の証(あかし)だ。脅威の認識を明確にしなければ国民に危機感が十分に伝わらず、外交や防衛政策を展開しにくくなる。
台湾の安全保障を日本が支援すべき理由や、その際に果たすべき役割も白書は触れていない。
沖縄の隣にある台湾は、自由や民主主義などの価値観を日本や米国と共有する。台湾は日米両国と中国がせめぎ合う第1列島線の中核で、すぐそばを日本にとって極めて重要な海上交通路(シーレーン)が通る。麻生太郎副総理兼財務相は5日の講演で「台湾の次は沖縄だ」と危機感を表明した。
台湾が中国共産党政権の手に落ちれば日本の自由と繁栄が失われかねない。台湾有事の際の米台軍への日本の後方支援、自衛隊の行動を準備しておけば平和を保つ抑止力が高まる。これらの意義を分かりやすく説くべきである。
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2021年7月16日付産経新聞【主張】を転載しています